Friday, November 11, 2011

もう肉も卵も牛乳もいらない! 3


この本の訳者酒井泰介さんが書かれた「訳者あとがき」にもとてもいいことが
書かれてあったのでご紹介します。“日本人にとってのヴィーガン”について書かれています。

 (前略)

 私事ですが、訳者も本書を読み、ヴィーガンになりました。原著者エリック・マーカスは、
主に動物愛護の理由のため、乳菜食主義者を経てヴィーガンになった経緯を綴っています。
転身にはそれなりの苦しみがあった由ですが、訳者の場合は苦もなくヴィーガンになり、
そのまま快適に暮らしています。その理由は、何より私たち日本人の恵まれた食生活に
あるでしょう。味噌、醤油といった伝統的な調味料がふんだんに使え、(したがって動物の
骨髄や脂に調味を頼る必要がなく)、豆腐や納豆といった手軽でおいしく栄養に富む食品が
あり、なにより米や四季折々の野菜、茸、海藻などが身近にあります。(中略)お菓子でさえ
小豆や葛、餅米、天草などからできていて、カロリーも低く、滋味豊かです。なにしろ、
私たち日本人はほんの数世代前まで事実上セミ・ヴェジタリアンだったのですから、菜食の
バラエティが豊かであるのも驚くことではありません。(中略)

 昨今、クーポン雑誌なるものがあちこちの都市で発行されて、人気を呼んでいるようです。
ぱらぱらとめくってみて、嘆息をもらさずにはいられませんでした。飲食店を紹介する
ページには、「飲み放」「食べ放」なる品のない新語が随所に躍り、何品もの皿で構成される
コース料理が信じられない低価格で提供されているようです。そのほとんどすべてが質の
悪そうな肉や魚や乳製品。食べて健康に悪く、飲食店もさして儲かるとも思えず、食材提供者
にはおそらく強烈な価格切り下げ圧力がかかっており、それが畜産や漁業の現場にどれほどの
重圧となってのしかかっていることか、と暗澹たる思いでした。物言わぬ動物たちは、人知
れずどれほどこのデフレ経済の犠牲になっていることでしょうか。

 訳者がヴィーガンになったのは、先に述べたとおり、本書の影響です。もっとも、踏ん
切りをつけるには、きっかけめいたことがありました。深夜、人気もまばらなスーパーで
そそくさと買い物をしていたとき、鶏卵の売り場であるPOP(販売促進用の店頭広告)が
目に入りました。M卵10ヶ入り100円。その値札には、「サザエさん」を思わせる、
頬に両手をあてる主婦のイラストが描かれていました。吹きだしにいわく、「まぁー、
うれしい」。それを見ながら、本書に書かれていた鶏卵生産の実態が思い出されました。
ああ、少なくとも自分はもうこんなことに加担するのはやめようー冷え冷えとしたスーパー
の店頭で、そう思って以来、動物性食品をきっぱり断つことができました。

(中略)

 私たちの先祖の暮らしは貧しく、つましいものだったでしょう。しかし殺生をなさず、
自然の再生サイクルの恵みを有難く押し抱くように生きていたのではなかったでしょうか。
それが期せずして、日本型ヴィーガニズムだったのではないでしょうか。飽食は喜びですか?

(中略)

 人間は、少なくともこれほど大量に、手軽に、動物を殺めて食べるべきでしょうか。

 ひとたびヴィーガンになると、こうした過剰な消費主義の愚かしさから解放されるカタル
シスが得られます。動物を苦しめることなく、空腹を心ゆくまで満たしてなお健やかに過せ
るヴィーガニズムの喜びを少しでも多くの人に知ってもらうお手伝いができたら、訳者として
これに過ぎる喜びはありません。

              『もう肉も卵も牛乳もいらない!』エリック・マーカス著


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